文化部−漫画『こども・おとな』

 

あの時、君のそばにいた人を。君を見つめていた人を。どれだけ思い出せますか?

福島鉄平という漫画家をご存知でしょうか。主に、青年誌であるヤングジャンプで読み切り作品を掲載しています。過去には週刊少年ジャンプで『サムライうさぎ』を連載したことのある方です。

福島先生の作品の魅力は若者、特にこどもの心の機微を描くのがとても上手なところにあると思います。

中でも2014年発表の『アマリリス』は福島先生の代表作と言っても過言ではないほど大きな反響を巻き起こしました。主人公は11歳の少年で、物語は「へんたいのおじさん」に売られてしまった少年の心の移り変わりを叙情的に映し出します。

『アマリリス』については何十回読んだか分からないほど大好きな作品で、語りたい気持ちは山々なのですが、今回ご紹介するのはまた別の作品である『こども・おとな』です。

(『アマリリス』はそれが表題作となった短編集で読むことができます。興味のある方は是非!)

 

『こども・おとな』という漫画

 『こども・おとな』は福島先生ご自身の思い出を虚構折り混ぜつつ紡いだオムニバス形式の作品です。といっても主人公はどのお話も共通で、小学一年生の男の子・相田サトルくんと彼を取り巻く人々の関係をハイレベルな情景描写で描き出します。

子供の頃の経験をそのまま映し出したような作品なのですが、物語に絡む人との関わりがほのかにあたたかく、思い出とはこんなにも美しく蘇るものなのか、と感銘を受けました。無駄な装飾はないのに、坦々としすぎずヒューマンストーリー的ちっちゃなドラマがそこにはあります。

さすが漫画家さん、さすが先生としかいいようがありません。

読んでいてあまりの懐かしさとノスタルジーに浸ってしまい「あああ、あの頃に戻りたい!」と思いました。そんでもって、「大切な人には会えるうちに会いたいな」なんて当たり前だけどつい忘れがちなことにも気づかせてくれたりして。

冒頭の文章は裏表紙に記載されているあらすじから引用したものです。小学一年生なんてもうずっと昔の記憶ですが、あの頃自分の周りにいた人々を自分は思い出せるだろうか。

忘れちゃうのは、悲しいな。

みんな今頃何をしているんだろう、と思い出を探ってみる。

たまには、過去を振り返るのも大事だから。

こども・おとな|集英社コミック公式 S-MANGA

あの時、君のそばにいた人を。君を見つめていた人を。どれだけ、思い出せますか? 懐かしい時代、ありふれた田舎の町の少年と彼を見守る大人たちの物語。不安と安堵の狭間を描く憧憬ヒューマンストーリー。

 

おわりに

福島先生の作品には正解がありません。登場人物がなぜそのような行動をとったのか、この作品で伝えたいことは何なのか。肝心なところはいつも読者の想像にお任せ。私としてはこの『こども・おとな』というタイトルに込められた意味を語り合いたいですね。

余韻の残る漫画。

だからこそたくさんの方に読んでもらいたい。10人読めば10通りの解釈があるような、そんな作風を持っています。

読んだ後なんだかふわふわする感覚、とっても心地よいので味わってください。是非、あなただけの感性で先生の作品から何かを感じて欲しいです。

 

文責:あすけ

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