文化部 – 新海誠「ほしのこえ」

 

わたしたちは、まるで宇宙と地上に引き裂かれた恋人みたい

もしも、あなたの大切な誰かからそんなメールが届いたとして、あなたは一体何が出来るだろう。

 

アインシュタインが相対性理論を導き出してから100年以上の時が経ったけれど、未だ多くの人にとっては、時空の歪みなんて言われてもパッとしないのだろう。

 

でも、それもそのはずだ。

だって今僕らが生きている世界では、時間はほぼ常に一定で、平等に流れているから。それは幾千年も昔の、人類がまだ六種類あった時代からの常識で、ひょっとしたら遺伝子レベルで僕たちの魂に刻まれているのかもしれないから。

時の流れは残酷だ

そんな言葉を、あなたは聞いたことがあるだろう。

仮に今あなたが大学生だろうと、きっとすぐに30,40になって、そしてだんだん老いていき、死んでいく。それは予め決められたことで、どんなに「この一瞬が続いて欲しい」と思ったって、それは決して叶わない。

けれど、時間が僕らにとって平等だからこそ、僕たちは同じ時を生きることが出来るのだ。

だからもし、将来宇宙旅行が一般的なものとなったら。もし、将来大切な人と何光年も離れてしまうことになったら。僕たちは果たして同じ時を刻むことができるのだろうか?

新海誠の最初の著作、『ほしのこえ』に登場する2人は、同じ時を生きることが出来なかった。

2046年、当時中学生だったノボルとミカコは、その年の夏のある日を境にその関係を引き裂かれることになる。ミカコが国連宇宙軍の戦艦、リシテアのクルーとして徴収されてしまうのだ。

そして、その日から宇宙にいるミカコと、地上にいるただの中学生であるノボルとのメールのやり取りは始まることになるのだが、時が経つほどにミカコはより遠く、時間の流れの異なる場所へと連れてかれてしまう。

ワープを繰り返すミカコと、平凡な道を歩むノボルは同じ時を生きられないのだ。ミカコの心臓が1回鼓動すれば、ノボルの心臓は数年分の鼓動をしてしまうから。

この物語は端的に表せば相対論という理によって、時間的、空間的に引き裂かれた2人の恋の物語。或いは、宇宙が身近になった未来の、宇宙に引き裂かれる最初の恋の物語だろう。

 

 

 

18世紀半ばに、イギリスで産業革命が起きてから、世界の歯車は従来の何十倍も早く回り始めた。これまで常識だったいくつもの事が一瞬でひっくり返り、2度の世界大戦を経て、人類はそれまでとは比較にならないような科学技術を手に入れてきた。

そして宇宙工学もまた、ここ最近になって急速に発展している分野の1つだ。かつては神格視されていた宇宙も、今や人間の手の届く位置に置かれており、今なおますます身近なものへと変貌を続けている。

そしてもしも、僕たちの住むこの世界でも、『ほしのこえ』で起きたような何らかのパラダイムシフトが起きたなら。もしも何光年もの宇宙旅行が可能になってしまったら。

その時に起こるだろう結末のひとつを、『ほしのこえ』は教えてくれた。

 
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