文化部 – ベーコンといちごジャムが一緒にある世界へ!

文章:たくと

『フクロウの声が聞こえる』小沢健二とSEKAI NO OWARI

リリース:2017年9月6日

この記事には、曲が試聴できるプレーヤーを埋め込みました。読みながらBGMに使ってください。

小沢健二といえば、1994年にスチャダラパーとのコラボレーション楽曲として発表された『今夜はブギーバック』を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

当時まだアンダーグラウンドで反抗的な存在だったヒップホップをジャンルの壁さえ飛び越えて一気にメジャーな場所へ引きずり出したこの曲は、日本の音楽史の一つのポイントとして記憶されています。コラボレーションというものは大きな可能性を秘めていると同時にお互いを打ち消しあうリスクも隣り合わせて持っているわけですが、スチャダラパーと小沢健二の共同作業はそれを見事に乗り越えました。

それから『ラブリー』や『ぼくらが旅に出る理由』などでヒットを飛ばした絶頂期の直後に行方を眩ました彼は、いくつかのアルバムの発表や海外での生活を経て昨年、ふたたび日本の音楽シーンに帰ってきました。2017年に発表された『流動体について』は実に19年ぶりのシングルです。『流動体について』は狂気的なコード進行に聴きなれない譜割りで初めから最後まで進む曲ですが、それでいて最高にポップ、水のようにスッと体に染み込んでくる不思議な音楽で、大好きです(聴いてもらいたい!ので以下から。フルバージョンはYouTubehttps://www.youtube.com/watch?v=oknWjuFCp2I)。

しかしここでは色々と書きたい気持ちを抑えつつ、その次にリリースされた2017年第2弾シングル『フクロウの声が聞こえる』を取り上げたいと思います。

『フクロウの声が聞こえる』は小沢健二とSEKAI NO OWARIによるシングル、『今夜はブギーバック』以来23年ぶりのコラボレーション楽曲です。そんなことを抜きにしても、この曲の最大の特徴が「オザケンとセカオワがコラボした!」ことなのは言うまでもなく、ある意味でベテランである小沢健二がメジャーな若手バンドと曲を作ったのはわかりやすくセンセーショナルです。しかし何より、そういった長いキャリアを持つアーティストが最先端を走る若手とともにあたらしいことに挑む姿勢が、最高に格好よく見えます。

そして曲を実際に聴いてみれば、セカオワの持つファンタジックな世界観とオザケンのロジカルで文学的な音楽性、そのふたつの「コラボレーション」そのものがそこにありました。

服部隆之(作曲家・代表作は『半沢直樹』『真田丸』など)によるオーケストラアレンジが爆発するイントロから音楽の中へと引きずり込まれ、静まったところにFukaseの歌が入ってきます。

晩ご飯のあと パパが「散歩に行こう」って言い出すと
「チョコレートのスープのある場所まで!」と 僕らはすぐ賛成する

「チョコレートのスープ」とは、異なるもの同士が混ざり合うことの比喩のように思えます。いままでなかったものが生まれたときの、ちょっとピリッとした、でも心地よくおいしい感じ、それをこの言葉ひとつで表すワードセンス。彼は東京大学の文学部を卒業していますが、その独特な知性は作詞にあらわれているように思います。

そして

フクロウの声が聞こえる 大きな魚が水音立てる

いつか本当と虚構が一緒にある世界へ

という一節へ続きます。

歌詞には相反する要素が並んで登場します。

本当と虚構混沌と秩序孤高と共働ベーコンといちごジャム・・・

リアルとバーチャル、ハードとソフト、喧嘩と和解、1人でいてもネット上で集団になれたり、表情と心が違っていたり、相反するものがじつは表裏一体でひとつになっている、そういうこの世界にこれから生まれてくる人たちへの警告と賛歌にも聴こえます。

今っぽい流行歌やキラキラしたダンスミュージックもいい音楽であることに変わりないですが、そういうわかりやすいものたちから少し離れて、謎解きをするように、言葉と音を味わう音楽もいいものではないでしょうか。

2組が楽曲について語る短編を載せておきます。イントロなど曲の一部も聴けます。おいしい映像と言葉、そして音。)

文章:Takuto Okamoto